Kougo-Zemi 2004
〜メディアリテラシーの理論と実践〜



■□PREFACE

みなさん、こんにちは。向後ゼミナールです。

私たち向後ゼミナールの説明を少しばかりします。向後ゼミの大きなテーマはメディアリテラシーを学ぶことにあります。故に、私たちの発表内容の根底に存在するのはメディアリテラシーとは何かを考えるということになります。メディアリテラシーの理論を具体的な事象とともに追っているのが、みなさんが今、手にしている文献です。そして向後ゼミ最大の特徴は、メディアリテラシーを学んだ上での映像作品を創ることです。

さて、フォーラム発表にあたり、みなさんに何を伝えたいか。そして何よりも自分たちが何を探求したいのか。長い議論を経て、文献ではメディアリテラシーの定義、イラク戦争について取り上げることになりました。9.11テロをきっかけにして、アメリカは、いや世界は混迷を極め、「Love&Peace」という大前提のもと、連合国は戦争に走りました。もちろん、対テロ戦争の第一義的意味は「世界平和のため」だと思います。しかし、アメリカは色々なものと癒着し、商業的側面や利権といった、資本主義社会の一端を、そこから垣間見ることもできます。先日、ハウエル国務長官は「大量破壊兵器は存在しない」と発言しました。戦争へ向かう大儀もあやふやだったのです。こういう世の中だからこそ、個人のメディアリテラシー能力が問われるのです。しかし、1つ言っておきたいことは、アメリカが良い、悪いとは誰にも語れないということです。国家には良いところ、悪いところが必ずあります。ことアメリカに関しては、アメリカという国家が強大すぎるが故、良し悪しを判断するのは非常に困難です。私たちはそのアメリカの複雑さを理解するために文献作成に取り組みました。そのような観点から文献を見ていただければ幸いです。

そして、我が向後ゼミナールの最大の特徴である映像は、出版界の不況を取り上げました。現在、本を取り巻く世界は危機的状況に陥っています。セカチュウこと、「世界の中心で愛を叫ぶ」が大ヒットを記録し、明るい話題はありますが、出版界はその裏で悲惨な状況が続いています。それに対して、本作品がどれほど迫ることが出来ているかは、自信はもてません。しかし、私たちは現時点で出来ることをやりました。映像を創るということは、創られたものを見ているのとは違うということを再認識させられました。流れてきた映像をただ見るのではなく、何が込められているかを考えながら見ていただければ、私たちにとって、これほど嬉しいことはありません。

文献も映像作品も未熟な内容ではありますが、みなさんからのご意見、ご批判、ご感想をいただければ幸いです。



向後ゼミ第5期生



□CONTENTS

Media Literacy
  1.8つの定義
  2.メディアへのアンケート

Topics 1
  ・プロローグ
  1.政界と軍事関連企業
  2.政界と石油関連企業
  3.石油とブッシュ政権

Topics 2
  アートメディアから見たアメリカ
  ・エピローグ

Interview
  講談社「web現代」編集長・服部徹氏





■□Media Literacy


1.8つの定義

メディアの本質は、日々変遷する人々の営為を情報という形で固定化することである。情報の受けてである我々が、その固定化の過程で織り込まれて行くメディアの様々な作為、効果と役割、歪みと優先事項、芸術的表現を読み解いて行く能力、それがメディア・リテラシーである。
以下にメディア・リテラシーの基幹となる、8の概念を提示する。

1.全てのメディアは全て構成されたものである」
メディア・リテラシーで恐らく最も重要な概念は、メディアが単に現実をそのまま映し出しているのではなく、つくられたものを提示しており、それらは常に特定の目的を有しているということである。一見してメディア生産物は自然であり、現実の延長ではない何かとして見ることは殆ど不可能である。我々はそうしたメディア生産物の複雑さを暴き出し、現実と作られたものを区別しなければならい。

2.メディアは現実を構成している」  
我々は自己の経験と観察に基づき社会のあり方とその機能について、イメージを持っている。しかし、自分の経験と観察と思っているものの大半が、実はメディアが予め決定した解釈や結論であり、メディアが現実をつくり出しているのである。

3.受け手はメディアから意味を見出す」  
メディアを理解する上で基本となるのは、我々とメディア生産物の間で起こる相互作用を認識することである。我々はメディア生産物を一方的に受け取るのではなく、個人的要求や不安、日々の喜びや苦悩、人種や性別に対する考え方、家庭や文化的背景などを通してメディアに働きかけ、意味を見出そうとする。

4.メディアは商業的側面をもつ」
メディアの制作は現実的にビジネスである。従って利潤をあげねばならないことを認識 し、それがメディア生産物の内容、技術、配給に及ぼす影響を認識しなければならない。また、近年では一部の報道機関や制作会社への所有権集中、複数のメディアの所有権の系列化が見られ、限られた個人でのメディア寡占の恐れが指摘されている。

5.メディアは自己のものの考え方と価値観を伝えている
メディア・リテラシーでは、メディア生産物が発信するものの考え方や、発信されたメッセージの中に含まれる価値観を認識する必要がある。それらは既存の社会システムを肯定し、メディア生産物自体の宣伝はもとより、より良い生活とは何か、豊かさの役割、女性の望ましい役割など、数多くのイデオロギーメッセージを明示的、暗示的に伝えている。

6.メディアは社会的・政治的意味を持つ」  
メディア・リテラシーの重要な側面の一つは、メディア生産物の持つ社会的、政治的効果を認識することである。メディアは受け手の価値観や思考形式の形成に直接的には関与しなくとも、それらを正当化し、強化する役割、つまりマスメディアが生活上の精神的母体を果たしている側面が存在する。より広範に見れば、メディアは今日、世界や社会的変化とも密接に繋がっており、メディアがつくり出すイメージによって国家の指導者が選出されることがある。また我々はメディアによって、市民権問題、アフリカの飢餓、或いは国際テロなどへ関与させられてしまう。

7.メディアは様式と内容が密接に関連している
マーシャル・マクルーハンの提出した論文によれば、「メディアはそれぞれ独自の文法と現実を構築する技術を有している」ものである。つまり、同一の出来事の報道は各々のメディアによって異なる印象、メッセージがつくり出されることになる。

8.メディアは審美的形式を持つ
各メディアは情報を送るだけでなく、芸術的技巧を有している。我々がスピーチや詩、小説で使われる文学的技法を楽しむのと同じ様に、メディアの芸術的技巧を理解すればメディア生産物の鑑賞を楽しむことが出来る。





2.メディアへのアンケート


私たちは在京のマスメディア各社がメディアリテラシーのついて、どのような考えを持っているのか。私たちが普段思っている疑問を7個にまとめて在京のマスメディア各社にアンケートの協力をお願いした。その結果、解答があったのは産業経済新聞、毎日新聞、読売新聞、TBS(敬称略)の4社である。この場で忙しい中、解答を考えてくれた貴社に厚く御礼を申し上げる。
以下はその時の質問内容である。


@ グレイブ刑務所で起きた虐待事件で、アメリカのマスメディアは内部摘発で入手した写真を無修正のまま掲載、あるいは放映しました。この事実が報道された後、イラク戦争反対の世論が過半数を超え、アメリカ政府部内に波紋が広がりました。また、アメリカのテレビは、イラク人によるアメリカ人虐殺の映像も放映しました。アメリカのメディアは日本に比べて放送内容が積極的で直線的だと思います。このようなアメリカのマスメディアの報道姿勢をどう評価されますか。

A ノーム・チョムスキーを代表とする反米・反権力を謳う書籍の頻繁な発行。彼に影響を受けたマイケル・ムーアの作品「華氏9・11」が社会的に大きな関心を集めています。一部では"サヨク・リバイバル"現象と揶揄されているようですが、そうした現象を、どのようにお考えですか。

B 9月14日新聞各紙は、「イラクにおける大量破壊兵器は存在しない」とパウエル国務長官が発言した、と報道されました。「大量破壊兵器は存在しない」にも関わらず、アメリカがイラク戦争に踏み切った、その戦争の大義とは何だったのか。どのようにお考えでしょうか。

C 昨年、秋、大手テレビ局で発覚した視聴率買収問題は、日本のテレビ界に衝撃を与えました。この問題が発生した要因を、数点指摘していただけますでしょうか。

D NHKの受信料着服問題。視聴者から集めた受信料で成り立つNHKがこうした問題を起こした要因を、数点指摘していただけますでしょうか。

E プロ野球再編問題では、選手会を後押しするようなメディアの論調が目立ちました。各メディアが果たした社会的役割や意義をどのように考えますか。

F 一部の週刊誌やスポーツ新聞では、プライバシーに関わる記事、また真偽の程が定かでないような皇室関連の記事など、私たちにとって不快感を覚える記事が目立つように思います。「表現の自由」の濫用ではないでしょうか。





■□Topics 1


プロローグ

〜羊頭を掲げ、狗肉を売るアメリカ〜


虐待のメニュー: 裸や卑猥な姿勢を写真撮影、裸にして数日間放置、殴打、有毒物リンを降り掛ける、自慰行為を強要、銃で威嚇、軍用犬で威嚇、冷水を浴びせる、眠らせない、食事を与えない、トイレに行かせない、音楽を大音響で流す、男性を箒で犯す、・・・。

アブグレイブ刑務所はバグダッド中心部から西へ約30キロの地点にある。同刑務所は60年代後半に建設され、約1平方キロの敷地内に独房棟や監視塔がある。旧フセイン政権時代には情報機関の管轄下で拷問や処刑が行われ、国民に恐れられたが、フセイン政権の崩壊とともに打ち捨てられ、一時荒廃。その後暫定当局が修復、新たに医療センターを敷設し、米軍管轄下の刑務所となった。このアブグレイブ刑務所でイラク人虐待事件が発生する。冒頭の文はその虐待の一部である。虐待事件の全容は米週刊誌ニューヨーカーが入手した、米軍作成の報告書に詳しい。

ニューヨーカーが入手した報告書は、冒頭で述べた様な「聞くに堪えないサディスティックな行為と、犯罪者への性的虐待」の膨大な事例が記載されており、虐待の多くは2003年10月から12月にかけて集中的に行われていた、としている。虐待の容疑で審問を受けた憲兵部隊6人によると、軍情報部やCIA関係者等の直接的、間接的関与があったという。また事件当時アブグレイブ刑務所の管理責任者だったジャニス・カーピンスキー予備役准将は後に、同刑務所の特別棟は軍情報機関が直接管理しており、国際テロ組織「アルカイダ」のメンバーなどを収容しているキューバのグアンタナモ米海軍基地から軍情報機関の将校等が訪れた際には、イラク人から情報を得る為の手法を説いたことを明らかにしている。


2003年5月1日、ブッシュ大統領はイラクでの戦闘終結宣言を行ったが、その後も米軍や暫定当局を対象としたイラク側の抵抗運動は激しさを増しながら継続し、米軍側のボディーカウントは戦闘終結宣言前を上回った。今後イラクで活動を続ける上で米軍側の被害の拡大は制約になりかねない。円滑に進めたい主権移譲も控えている。その為にも障害となる抵抗運動、及び抵抗運動の拠点を抹消したい。その為の情報が欲しい。虐待行為の裏にはそうした軍情報部機関、CIAの思惑、ひいては米政府の思惑があった筈である。

今年4月に起きた米民間人虐殺・遺体損傷事件では、報復措置として多い時で1日に100人以上のイラク人が米兵の手によって殺害されたという。囚人虐待、報復措置、何れにしてもアメリカはあまりにも簡単に理性を超越してしまう。否、もしかしたら、実はそう見えているだけかもしれない。自己の利益の保全の為なら他を省みない冷徹な感情が、アメリカには厳然と存在している。「悪の枢軸国」発言から2年、今となってはイラク攻撃の大儀であった大量破壊兵器も、アルカイダへの支援も根拠が無くなってしまっている。フセイン体制下からの民衆解放も頓挫に近く、何よりも内政干渉である。一体アメリカの狙いは何だったのか、そして報道機関はイラク戦争をどの様に見ていたのか、以下に続く特集で検証していきたい。





1.政界と軍事関連企業


銃社会アメリカでは日本よりはるかに武器と一般庶民の距離が短く、当然のように国内に軍事企業が構えている。トップグループの中には10数万人の従業員を数えるものもある。当然、商品である武器が売れれば売れるほど、彼らは儲かる。自然、戦争への期待度は高くなる。その軍事関連企業がアメリカ政界と結びついていたらどうなるだろうか、無用な戦争を起こしかねないだろう。現実のところはどうなのか。今回のイラク戦争を、まずは軍事関連企業にスポットを当ててみていきたいと思う。

アメリカには、米軍の主要な軍用機を製造している航空会社の、ロッキード・マーティン社、ボーイング・ダグラス社、ノースロップ・ダグラス社、そして軍需製品を取り扱うレイセオン社などの主要な軍事関連企業がある。各社の詳細は資料の通りです。これらの企業はブッシュ政権の恩恵を最も受けている。日本でいう「天下り」が、アメリカの「回転ドア」−つまり元官僚・閣僚が政府と企業の間を行ったり来たりするものである。兵器メーカーはペンタゴンに限らず、あらゆる政府の機関と結びつきを持っている。そして現在のブッシュ政権において、ミネタ運輸長官とジャクソン運輸副長官、チェイニー副大統領の妻リン夫人はロッキード・マーティン社と、ローチェ空軍長官、そしてウォルフォウィッツ国防副長官などイラク戦争における際強硬派も、ノースロップ・グラマン社と密接な関わりがある。

この他にも、チェイニー副大統領は民間軍事会社、ケロッグ社と、大手石油会社のハリバートン社を通じてつながっている。チェイニーは元ハリバートンの会長で、ケロッグ社はその子会社なのである。最近の米軍の兵器は、非常に高度な操作技術が要求されるので、こうした民間会社の社員も同行することとなっている。そしてこのような民間会社は、20年前の10社から今日30社に増えており、ほとんどがペンタゴンと同じバージニア州にある。そして、ペンタゴンから250億ドルもの大金がこうしたところに流れ込んでいる。政府と民間軍事会社とも「回転ドア」は当然のように行われている。また民間軍事会社のスポークスマンは、ペンタゴンの国防情報局の局長だった人物。彼は「我々は、軍事サービス業務につきたい1万人を超す元軍人のデータ・ベースを持っている。我々はペンタゴンよりも多い軍人を有している」と豪語している。つまり、軍人の天下り先として、民間軍事会社が彼らを一手に引き受けているのが現状である。

アメリカの民主主義とそれを支える国民とメディア、議会は、少数のグループが企業と軍、政府の権力を独占するという、危険事態がもたらす脅威に対処できる準備ができているのだろうか。「9月11日、自由の敵がわが国に対して戦争行為を犯した。我々は自らの大儀の正しさを確信し、勝利を信じて、根気強い正義をもって暴力に対抗していく」と演説するブッシュをテレビ画面で何度も登場するのを見ただろう。だが、その水面下で多くの権力者たちは、軍需産業と深く結びついていたのである。





2.政界と石油関連事業


@フセインとブッシュ  
アメリカが対イラク戦争を開戦した理由は、大量破壊兵器の発見ということになってい る。しかし、「大量破壊兵器が発見されなかった」との調査書が提出された今、私たちは 本来のイラク戦争の目的が何であったのかを検証する必要がある。石油戦争と揶揄さ れるこの戦争。アメリカはなぜそこまで石油に固執するのだろうか。まず過去のアメリ カ政権と石油関連企業の癒着に追っていきたいと思う。

Aメジャー石油(テキサコ、ガルフ)
中東とアメリカの石油における関係はいつから始まったのだろうか。世界最大の石油埋 蔵量を誇るサウジアラビアはアメリカの石油企業と深い繋がりを持っている。1933年にアメリカの企業、ソーカルはサウジにおける石油採掘権を取得している。そして、同じ くアメリカのテキサコという企業に話を持ちかけ、両者が中東で完全に一つのグループに なる契約を結ぶのである。スタンダード石油、ガルフ石油、テキサコ、これらはアメリカのメジャーと呼ばれる石油会社である。この3社はお互いに関係を持ち、政権との関係も持ち合わせている。つまり、サウジの採掘権を獲得したのは、事実上、企業ですがアメリカ国家そのものと言って も過言ではなく、これを発端にアメリカは石油目当てで中東に介入していく。

B湾岸戦争
アメリカの中東への介入は数々の問題を引き起こしてきた。そのうちのひとつである、湾岸戦争を取り上げてみよう。当時のアメ リカのイラクへの対応は最初ひどく緩慢なものでしたが、イラク軍がクウェート侵入を始めると、無関心を180度転換させた強硬姿勢に転じ、各国の支持を得るための外交活動を展開させ、アメリカ主導の多国籍軍なるものを作った。 この戦争でアメリカは二つの得をした。一つは「軍事兵器企業群」であり、もう一つは石油メジャー企業に舞い込んできた利益である。クウェート侵攻によって石油輸出国機 構OPECは分裂状態になり、アメリカ及びメジャーの石油価格に対する統制力が大幅に 回復した。 こうして、湾岸戦争が中東への攻撃や復興過程でアメリカに巨大な利益を与えたかが分かると思う。ブッシュ大統領の父、俗に言うパパブッシュ政権は各企業と密接な関係があった。ブッシュ大統領は選挙時にテキサコから資金援助を受け、彼自身クウェー トで採掘された石油を扱う会社を創立した。この戦争で利益を手に入れた企業と、当時のブッシュ政権の間に繋がりがあったのは紛れもない事実である。





3.石油とブッシュ政権


@ ブッシュ
ここまで歴代アメリカ政界と石油関連企業に視点をあててきたが、ここから先はブッシ ュ政権と石油の繋がりについてみていく。 ジョージ・ウォーカー・ブッシュ、彼は、第41代ジョージ・ハーベルト・ウォーカー・ ブッシュの息子であり、政界に大きなバックボーンを持ち、石油ビジネスと深い繋がりを 持った大統領である。就任当初のブッシュ政権は最富裕層の減税と、石油企業に有利なエネ ルギープログラムの実現などに明け暮れたため、経済の悪化と財政赤字が増加した。 しかしそんな折に9・11事件が起こり、ブッシュ政権は政策の焦点をイラク問題に移行 していった。

A イラク戦争
ブッシュはイラク戦争開戦当初、「大量破壊兵器を取り除くために武力を行使する」と述べていた。しかし、今年10月6日の米調査団の発表では「大量破壊兵器の備蓄は一切ない」とされた。これは開戦にあたって揚げた主要な根拠を否定していることになる。経済的リスクも高い戦争でありながら、何のためにアメリカはイラクを侵略するのだろうか。イラク戦争は一方で石油のための戦争と揶揄されている。

B ラムズフェルド国防長官  
ラムズフェルド国防長官はそんな揶揄に対し、「石油とは関係ない」と躍起になって何度 も断言してきた。しかし、先ほども述べてきたように政界と石油企業が切っても切れないアメリカ、「関係がない」とは言い切れないのではないだろうか。9・11事件以降、 新たなエネルギー戦略の確立を迫られているアメリカは、サウジとの同盟関係が危機に陥 っている今、フセインを打倒しイラクに親米傀儡政府を樹立しようとしているのではとの見方が強まっている。過去にもアメリカはイラクに石油パイプラインの建設を試みたことがあり、その計画を 進めた主要人物は先ほどのラムズフェルドである。

C 石油企業「エンロン」
初めにも述べたように、ブッシュ政権も歴代政権と同様にエネルギー企業と繋がりを持 っている。2001年に経営破綻したエンロン社は、ブッシュ親子の最大の政治献金者 であり、更にブッシュ政権の中核を担う閣僚達もエンロン社の株を保有していたと伝えら れているのが、いい例である。このようにブッシュやその政権を担う者と、エネルギー企業 の癒着は絶えない。

Dブッシュ政権閣僚
中東外交で石油を獲得し、エネルギー企業から政治献金を受け取る・・・ブッシュ政権 の対イラク戦争は大量破壊兵器疑惑だけではなく、エネルギー業界を初めとするアメリカ の内部事情も多く関わっていると考えられるのである。





<参考資料>

「ブッシュの戦争株式会社 -テロとの戦いでぼろもうけする悪いやつら-」
     ウィリアム・D・ハートゥング ・ 阪急コミュニケーションズ

「アメリカの巨大軍事産業」
     広瀬隆 ・ 集英社新書

「反ブッシュイズム -いかにブッシュ政権は危険か-」
     アンドリュー・デウィット/金子勝 ・ 岩波書店

「歴史で読み解くアメリカの戦争」
     山崎雅弘 ・ 学研研究社

月刊「日本の進路」 2004年6月号 
「戦争まで民営化されるアメリカ」
     本山美彦





□Topics 2

「アート・メディア」から見たアメリカ


@John Fitzgerald Kennedy
ジョン・F・ケネディという人物、知っている方がほとんどではないだろうか。彼は1960年代初頭、最年少・初のカトリック教徒のアメリカ合衆国大統領として注目され、任期中の1963年に糾弾に倒れた人である。
彼はアジア太平洋戦争で海軍に入隊。魚雷艇の船長となり、軍功を立てるなど、自分自身も戦争経験をもっている。戦後、民主党に入党し、1960年共和党大統領候補のニクソンに対して防衛・経済問題を取り上げて、勝利を勝ち取った。彼は任期中に2度の山場を迎えている。

Aキューバ危機
1962年にソ連がキューバにミサイルを配備したことによって、アメリカとソ連の間でおきた抗争事件で核戦争が始まるのではないか、と危惧された。1959年キューバにカストロの革命政府が成立。アメリカはそれを認めず、経済封鎖による孤立化を図った。当時、冷戦の真っ最中、そこに近づいたのはソ連のフルシチョフ首相である。フルシチョフ首相はキューバへミサイルの配備計画を持ちかけた。これはアメリカ東部を射程内に置くことを意味している。ソ連側はこのことを否定していたが、アメリカ支援の亡命キューバ人部隊がキューバに侵攻した際に撃退されている。1962年、夏、アメリカ偵察機がキューバでのミサイル基地建設の写真撮影に成功、10月14日にはミサイルを確認。当時大統領であったケネディは協議をすすめ、キューバに侵攻・空爆・海上封鎖・外交交渉と対応策を検討。10月22日ケネディは海上封鎖を宣言し、ミサイル配備を阻止、ソ連側のミサイル解体・撤去を要求した。ミサイルの搬出を確認するため、アメリカ海軍は封鎖海域を設定。また、米州機構加盟国はアメリカの一連の措置を支持。その結果、フリシチョフ首相は当時の立場を変更し、アメリカがキューバに侵攻しないことを条件に撤去に同意。ソ連はこの危機でアメリカに譲歩したことにより、米ソ間の平和共存に向けて、急速に接近した。

Bベトナム戦争
1960年代初頭から1975年4月30日までベトナムの地で繰り広げられた南ベトナムと北ベトナムの武力衝突。しかし、根底には南を支援したアメリカと、喜多を支援したそp練・中国との政治戦略的な戦争であった。アメリカはケネディ→ジョンソン→ニクソンと3代の大統領が関与。国の威信をかけた戦争であったが、北ベトナム側の勝利に終わり、アメリカ軍はベトナムから撤去を余儀なくされた。

Cベトナム戦争の特徴から見る、戦争報道
この戦争の特徴の1つ目は戦争の前線が存在しなかったこと。北側は米軍及び、マスコミが「ベトコン」と呼んだ南ベトナム解放民族戦線を中心に南ベトナムの領土内でゲリラ戦を展開していった。2つ目は報道が自由になされていたことである。ベトナム戦争ではカメラマンは報道関係者はどこに行くにも自由であったことである。軍のヘリに便乗することもでき、自分がアピールしたい報道が出来たことである。ゲリラ戦を展開したこの戦争ではアメリカ軍の軍備は全く役に立たず、北側のゲリラ戦に恐れたアメリカ兵は士気を低下、アメリカ軍の勝ち目はなかった。戦争が終わった今になっても戦争の傷は癒えておらず、前線に立ったアメリカ兵が祖国に戻っても元の暮らしに戻れない心の病も問題になっていた。
ベトナム戦争の特徴にあったとおり、この頃の戦争から「報道」が大きく関与している。また機器の発達により、未然に大きな戦争に成ることを防いでいる。軍のヘリに便乗できるというのは、今では考えられないことだ。このベトナム戦争でジャーナリストが自由に行き来できたことで、作戦もれが少なからず会ったという。この経緯を踏まえて、アメリカ連合軍は湾岸戦争からは作戦中の報道関係者を完全にシャットアウトした。情報1つ、ラジオから流れる一言で、人間の心は扇動されてしまう。封鎖的ではあるが、関係者のみで戦争を済ませるというのは第二次世界大戦のような悲惨さを最小限に抑える唯一の手段ではないだろうか。

D戦争と「アート・メディア」
この時代の出来事は全て映画化されているのをご存知だろうか?キューバ危機であれば「13デイズ」。ベトナム戦争は「地獄の黙示録」。「地獄の黙示録」は来年に完全版として、期間限定公開される予定だ。映画化するに値する出来事であるが、その中でも”ケネディ”の人間そのものに映画化できるヒューマンドラマがあるように思う。ケネディ=英雄、のような考え方がアメリカ国民の中では強いのではないか。ケネディ自身、またケネディ一族にまつわるエピs−ドは周知のとおりである。人々が食いつきやすい要素はたくさんある。
戦争映画、その軸となる登場人物のエピソードは、歴史を知るだけではなく、その立場におかれた人物の物語、そして見る側にも少なからず”その人はすごい”とある種の洗脳に近いものがある。





<参考資料>

「毎日新聞」 2004年9月17日

「戦争報道とアメリカ」
     柴山哲也 ・ PHP新書

「アメリカ帝国 〜世界支配のカラクリ〜」
     双葉社

映画 「13デイズ」

映画 「地獄の黙示録」





■□Interview


ここでは映像作品でインタビューを受けてくださった服部徹氏へのインタビュー内容の全てを掲載した。

服部徹氏

日本大学法学部卒業後、株式会社講談社に入社。「フライデー」「週刊現代」などの編集部を経て、初のweb雑誌「web現代」の編集長へ。ナンバーワン&オンリーワンのオンラインマガジンとして、未知の分野の開拓に挑む。
現在は「web現代」をリニューアルし、「moura」の編集長として、活躍中。


「インタビューを終えて

今回、映像作品でインタビューを受けてくださった服部氏のインタビュー内容を全文掲載することになったのは、私たち、ゼミ生のみならず、多くの学生にとって非常に興味深い内容だったからである。さらには、インタビューが90分近くに及び、映像作品の時間的都合により、それを3〜5分という大変短い内容にしなくてはならなかった。編集により削除しなくてはならなくなった部分を、何かの形にせずに埋もれさせるのが惜しいと思ったからだ。そして同時に90分ものインタビューを3〜5分に都合のいいように編集し、視聴者に伝えるといった行為が「現実を構成している」というメディアリテラシーの基幹のひとつを私たちが再認識するためでもあった。メディアリテラシーを実践の面からアプローチした私たちは、送り手の意図や難しさを学ぶことができた。

このインタビューの内容は紙面におこすとA4用紙21枚分に及んだ。出版界の現状はさることながら、仕事の話や仕事に対する話が盛り込まれている。雑誌を読んでいるかのようで純粋におもしろい。その中から何を思い、何を考えるのか。

私たちの映像の大きなテーマとしては出版会の不況を考えると共に(出版物の大量出版、新古書問題、取り次問題、本屋の質の低下etc・・・)このままだと本という存在がどうなるのかということを考えることにあった。このような時代にあって、Web上でのオンラインマガジンや魅力ある本屋の出現と、時代のニーズにあわせた対策は目まぐるしく出てくるだろう。そこで、私たちが望むものはなんだろうか。  「あれもこれもやったけど、結局面白いものをつくるしかない、原点に戻った」と服部氏は語っている。本を取り巻く世界は、極めてシンプルだ。面白ければ売れる、面白くなければ売れない。けれど、本当に面白いものが売れているのか。昨今、簡単に本は出版され平均すると1日約200冊もの新刊が店頭に並ぶことになる。その膨大な量の出版物を相手にする読者層の質の低下がしばしば叫ばれている。(服部氏いわく民度の低下)簡単な本、読みやすい本、売れているからという理由で買う読者が多い。それを変えていくためには、ひとりひとりがこだわりを持つことが大切なのではなかろうか。村上春樹がすきだったら村上春樹が書いたものは全部欲しい、スラムダンクがすきだから、台詞まで覚えてしまった、リラックスがでたらすぐ買いに行く、インビテイションが出たらすぐ買いに行くといったそういうこだわりだ。何かが消費者と合致するから本や雑誌にこだわりを持つ。それがその人にとって良い出版物なのだ。そうして、自分の部屋は自分のこだわりの図書館になっていく。

辺りを見渡せばレンタル屋、漫画喫茶、ブックオフといったものが街には溢れている。買わなくても借りればいい。買うなら中古で安く買う。そんな状況がそろっている。それでも、買ってでも家に置いておきたいという商品をつくること、商品に対し、自分の感性に触れるものに消費者はこだわりを持つこと。それが大事なのである。もちろん、人それぞれ価値観は違うのだから、それぞれのこだわりが生まれる。故にいろいろな人にたくさんの種類の本が愛される。だからこそ出版側も、面白いものをつくるという原点を大事にしなくてはならないと思う。いいものをつくる。これは音楽やゲーム、映画にも当てはまる。

私たちの望むもの。それは情報の錯綜する世の中において、自分の目で見て、自分がいいと感じたものに愛着を持つこと。そこから先に望むものが見えてくるのではないだろうか。ファッションにはこだわりを持って、福沢さんを使うのだから、ハードカバーに夏目さんを2枚ぐらい出すのは簡単なはずだ。そのくらい本というものにこだわりを持っても 罰は当たらない。本の未来は50年後、100年後どうなるかを考えよう。

服部氏いわくマニアックメジャーになること。そう、マニアックメジャーになろう。

最後に映像作品を作るにあたり、貴重な話をしてくださった服部氏にこの場をかりて感謝いたします。どうもありがとうございました。





■□POSTSCRIPT

「勉強不足だった・・・」。
一切を終えてから抱く率直な感想だ。
「意識」が持つ唯一の価値が、その共有化にあるとするなら、共有化に耐え得る「意識」を提示するには勉強不だったのである。時間はたっぷりあった筈なのだが・・・。

映像、文献ともに、テーマを確定する段階から、そして内容を確定して仕上げて行く段階に於いても、なかなか人員が集まらず、従って議論は平行線を辿り、状況は遅々として進展せず、時間の空費が続いていた様に思う。また、締め切りを設けた私、編集長自身が期限を遵守出来ないという失態を演じてしまった。ご迷惑を掛けた関係各位に、この場を借りて今一度陳謝申し上げたい。

さて、現在の日本では、メディア・リテラシーという言葉はまだ耳慣れない言葉かもしれないが、日曜の早朝時間帯にはメディア・リテラシーを扱った番組が幾つか放送され始めるなど、関心は高まってきている。昨今発生した日テレ視聴率問題や、NHKの受信料横領事件など、メディアに対する信頼が揺らぎ始めている現在、メディア・リテラシーの持つ要素はメディアと密接に関係しているし我々の生活に欠かせないものとなる筈だ。

最後に文献、映像作品を制作するにあたってご指導、ご鞭撻を頂いた向後先生、映像作品の中でご協力頂いたWeb現代の服部氏、林教授に心より、感謝の意を表します。




                         
向後ゼミナール5期生一同

青井陽一郎  安斉美奈  池永眞人  石原郁美  尾木和聡  
小峯寛子  
小宮脩  斉藤景子
  清水裕一  高橋めぐみ
竹澤祐一  中村誠  古田啓  的場泰平