5期生 映像班 

始めに
我々向後ゼミナール五期生が、作品にするよう挙げたテーマは以下のものだった。  

・ 出版界の不況
・ 陪審員制度
・ 東京メトロ線開通
・ 日本大学野球部を追う
・ CCCD〜音楽業界の変容

その中から、出版界の不況という借りタイを付け、BOOK OFFなどの大型新古書店進出による、出版界の不況についてのドキュメンタリー作品を撮ることになった。確かに、我々の大学日本大学法学部の場所は水道橋。近隣には、出版社、また古くから存在する、専門書店や、古本屋が並ぶ土地である。取っ付きやすいテーマだったことは確かである。

テーマは出版界の不況。我々が、手をかけてこれから撮る作品のテーマである。これからは、さくっと時間軸で流れを追いながら、この文章を書いている私の記憶と、感情を記していく。そのことをご理解いただきたい。



活動記録
7月20日
夏合宿

ここで、各テーマにおけるグループの調べた結果を発表し、話し合った。

・ 流通経路〜取次ぎ、再販売価格維持制度、委託販売制〜
・ 著作権
・ 出版界の現状
・ 新古書店(消費者から見た視点)について 

前もって4つのグループに分かれ、上記4つを調べてくる決まりごとだったので、話し合いはスムーズに進んだ。この席では、我々の知識を均一にし、より深い理解を高めること、または、作品作りに対するアイディアを出せるようにすることが目的だった。
話し合った結果、気づいたことが一つある。出版界の不況を取り上げる中、著作権について、盛り込むことが思いのほか困難だということだ。そもそも、この時進行のプロットは、
 1、 大型新古書店の台頭と、その販売方法
 2、 本がどの程度売れなくなっているのか。それによる大型新古書店と本屋の比較
 3、 大型新古書店や、図書館が抱える、著作権問題、「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」の主張
 4、 出版社側、小売店の問題として、流通制度の見直し                                                                                     
などである。
現法によると、著作権法は、大型新古書店で本が売れても、図書館や、漫画喫茶で本が読まれても、出版社、著者には、一円も支払われない。 そこは、出版界の不況の一つの直接的原因にはなるが、著作権法の問題を追及していくこと自体は、テーマから外れていくことになるということである。大きく著作権法に、スポットを当てず、ここは、改正が必要と叫んでいる「21世紀のコミック作家の著作権を考える会」が言っている事実と、著作権法が時代に対応していないから、こうした問題が起きている、これぐらいのスタンスで、著作権とは付き合っていくことにしようと決めた。
いずれにせよ、この話し合いは、大成功だったわけだ。無常にもお酒を飲む時間は無くなったが…


8月4日
脚本準備

脚本の準備に取り掛かる。書く人間は、4人。たまたま暇だった小宮、眞人、的場、小峯が池袋のファミレスに集合。書く上での約束事、相談事もなく散った4人は、

・ オープニング〜問題提起と、現状説明
・ 大型新古書店の台頭
・ 流通制度の説明、問題点、
・ エンディング〜結論付け。新たに解った我々の物との関わり合いの問題

と言った基本事項だけを頼りに、一週間の創作時間を与えられたのである。当然ながら、1人につき、1つの丸ポチ。ちなみに私は、最後。


8月14日
脚本まとめ

場所は、吉祥寺。理由不明。
各自持ってきた、脚本を基に全体の見合わせ。 前後関係の辻褄を合わせるため、エンディング箇所で、結論付けるための、問題提示を どの箇所でするか!?などの話し合いが行われる。
製作意図がどこにあって、製作者側 が危惧し、狼狽した問題は、どこにあるのか。要するにそこが決まらなければ、脚本上 必要、不必要箇所も見当たらない。
脚本の改正は、今後編集作業に至っても 行われていくのだ。


9月24日
クランクイン

さあ、お待ちかね。撮影初日の始まりだ。

いつだって物事には、始まりと終わりがある。脚本が未完成であろうとも、撮るべき素材が漠然としても、スタートしなければ、進んでいかない。カメラの充電はO.Kか。スクリプトは用意したか。はたまた、マイクの調子も確認だ。一歩踏み出した外の世界には、あらゆる撮影現場と、美しく、慈悲のない事象が、巻き起こっている。あるのは簡素な機材と、仲間達と作品への相談、そして、俺の問題意識だけ。それを一つ一つ形にしていくだけ。歌ってくれよ、グリフ・リス。 イッツ・ノット・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド?

撮影したシーン ・青山ブックセンター・青山本店前・書店内・インタビュー
カット数は9。

でも、青山ブックセンター青山店の中を自由に撮らせてもらえて良かった。あげくのはてに、お店のカートンを使っての撮影も許可なく敢行。いい絵が撮れた。

10月1日VILLAGE/
VANGUARD

VILLAGE/VANGUARDの店内を撮りまくる。
スペースがさほど広くない店内。アナウンサーがまっすぐ歩いていくのを、引きながら舐めるカットは苦労した。カメラは、ぶれる。ガンマイクは、絵に入る。さんざんだったが、ようやくなんとか、形にする。VILLAGE/VANGUARDの売り方を目のあたりにして、やはりこうしたキャッチコピーに購買意欲を高める、我々消費者のファッションレベルで文化価値に接する態度に疑問を覚えたが、

 『20世紀の文学に花束を』−夏目漱石「坊っちゃん」
 『やっぱりこの人は天才だった』―三島由紀夫「金閣寺」
 『絶望、ただ絶望』−太宰治「人間失格」            

どうなのかな?これ?
ただ、こうした、書店展開をすることには、素直に拍手を送ろう。買ってもらおうとする意欲はあるますわな。

出版界の不況→
原因1:大型新古書店の進出
原因2:流通経路における問題
原因3:販売方法の古さ

集結:我々の意志は何? 本は必要かい? 安ければいいのかい? 

我々のきっかけ、と同時に視聴者も、BOOK OFFなどの大型新古書店進出によるために、まずは出版界の不況が起こっている。ことを知る。そして、次第に問題は、内部にあることに気づく。流通経路には、依然としてシステムの不確かさがあり、VILLAGE/VANGUARDのような、販売方法を紹介しながら、売り方にも問題があることへ移動する。 そして、最後に我々消費者が、何を思い、本に触れるのか!

この流れに確信を持つ。
ありがとう、VILLAGE/VANGUARD。


10月6日
講談社

講談社web現代(現・moura)編集長・服部氏へのインタビュー。
この間、インタビュー意見の使う場所を話し合いながら、脚本の手直しは、脈絡と続く。


10月12日
インタビュー

日本大学教授林先生へのインタビュー。
林先生の使う箇所に関して、悩む。こちらの都合の良い箇所を抜き取り繋げる。
これぞ、メディアリテラシーと納得し作業を続ける。

10月18日
撮影中

神保町本屋めぐり、またアナ撮り。
神保町の町を網羅。これで、だいぶ素材が揃う。


10月20日
撮影中

細かな編集作業へ入る。同時にナレーション撮り 編集作業。
しかし、思ったよりも素材がない。 必要なカットを書き示してないことが問題だった。調べていくにつれ、脚本は大幅に書き直されていく、しかしそれに素材のほうが追いついていかない。問題は、山のように存在していたが、我々は、戦う、必死で。それは、メディアリテラシーに対する、客観性もないままに、ただ貼り合わせのように、素材を撮っていく。撮っては、ナレーションに繋げ、撮ってはナレーションに合わせる日々が続く。
しかし、結論だけは、明確に、決まっていたおかげで、根幹外れてはいかなかったように思う。いかに我々の作品作りに対するスタンスが結末に向かって真っ直ぐに進んでいたかが伺える。
この間、編集者と、撮影部隊が別個に動く。こうしてやると、始めからしていたら良かったと思うぐらい、効率が良いことに気づく。気づいたときには、もう残り2週間。


10月22日
撮影終盤

またもやアナ撮り、そしてBOOK OFF領国店へ。東京丸善へ。

特にコメントなし

11月1日
完成

作品完成。終わり。
肝心な発表の時に間に合わない、大惨事を起こすが、それも、あのアナログなパソコンのせい。くそ。



終わりに
我々は、出版界の不況について、ドキュメンタリー作品を撮った。
しかし、作品は我々視聴者の明確な考えを促すために撮ったように思える。

そもそも、我々の本に対する関わり合いというのは、ある特定のメンタリティーや暮らしや思想をリプリゼントしてしまうものなのです。あなたの本棚をご覧になってください。大抵の人間は、そこに何か、一貫性や統一性というものが見え隠れするものなのです。

BOOK OFFで本を買うなと言っても、本の安さを一番に考える人にとっては伝わらないもの。価値観と言うのは、相対的なものなのです。絶対的ではありません。 我々が、出版界、さしては本の絶滅を訴えながら言いたかったことは、そういうことなのです。 後は、みんなで考えながらこれからの本との付き合い方を考えて生きましょう。

BOOK OFFを利用するのもよし、アマゾンで購入するのもよし、ただそこには何かしらの問題点が潜んでいることを、考えながら…


小宮脩