映像の解説



 

 企画は4期生中村の立案した、「映画を撮る人を撮る」がベースとなっている。友人をたどっていった結果、日大芸術学部の諸星君という人物に行き着いた。彼は2003年の夏、自身が監督となり、ドラマ制作を企んでいた。それを我々がドキュメンタリーとして撮影することになったのである。

 2003年、冷夏。撮影が始まった頃、ようやく暑くなってきたかと思う頃だった。撮影とはなかなかすんなりと行くものではないようだ。役者、ロケーション、騒音、時間、などなど考えていたものの通りには簡単にはいかないようだった。事実、諸星監督は最後のインタビューで「伝えたいことが分からなくなった」といった内容のコメントを残している。

 ドラマの内容は、詳しくは分からないがベースはSFのようで、人間ドラマに基づいたストーリーだったと記憶している。あらすじは、青いバラが開発され世界中に広がったのだが、その青いバラはウイルスを持っていて回収されることに。バラの開発者、その周辺のウイルス感染者、青いバラや感染者を取り締まる組織などがバラをめぐってストーリーが展開していく。
 作品を見た人から、どういうドラマを撮っているのかという質問が多かったので簡単に紹介した。

撮影の進行具合と予定の遅れから焦りがあったはずだが、諸星監督は協力してくれている周りのスタッフが少しでもやりやすいように笑顔を絶やすことがなかったことが、我々の印象に残ったことである。諸星監督を映像制作者の一人物として追いかけた作りとなっている。

 そういうわけで我々が制作した映像は、その笑顔の影響力に焦点を当てた作品となっている。私の記憶が確かならばタイトルは“Power of smile”のはずだ。このタイトルを決めるときも映像班内で結構議論して決まったものである。もし、余裕がなかったら、“みかん☆星(未完成)”となっていたかもしれなかった。

 映像のないように戻ろう。笑顔は伝染するのか、周りのスタッフも笑顔であふれていた印象が残る。周りのスタッフや役者などの笑顔は自然な笑顔だったような気がする。しかし、監督は監督として現場を統括するためにやむなく笑顔を潤滑油として使っていたのかもしれない。それは後半、クランクアップ後の一幕に収束される。
 クランクアップ後に主演の青柳さんという人が撮影が終わり、「諸星監督、編集頼むよ〜」という声をかけていた。当の本人は冗談ではあろうが「嫌です!」と答えている。実際のところ、撮影中、思い通りに行かないアクシデントもたくさんあったし、向後ゼミの素人を役者に起用しなければならないくらい人手には困っていったはずである。これはいくら編集でも直せないだろう。そんな撮影を何とか終えて編集に入っていくわけだから、不安は山のようにあったかもしれない。しかし、ここで深刻な表情や態度を周りに見せるのではなくユーモアも含めた振る舞いで、最後まで周りのスタッフが楽しめるように気を使っていたとも取れる。しかし、意識的というよりは、制作作業を続ける上で自然とそういう風に振舞っていたという気がする。

 我々の編集はと言うとプロデューサーたっての希望で日記調にしようということで、日めくりカレンダーのように撮影日と内容がぺらペらめくれていく方法を大きな場面の切り替えの時に使った。その文字が日がたつに連れ、濃い緑からだんだん紅葉して行ったことに気づいた人はほとんどいないかもしれない。余裕があったのだろうか。遊びである。
 気づかないと言えばインタビューの口と声を合わせる時、どうしても要らない音が入ってしまっていた。これくらいはしょうがないとあきらめかけていたが、映像班 I が匠の技で音を消してしまった。逆に普通すぎて未編集のようでこれまた誰も気づかないだろう。そのとき研究室にいた3人は狂喜乱舞していたような気がする。
 渋い役者の演技が長すぎて時間が足りなかった。そこで時間を縮めたのだがどうもテレビで見るような早送りが作れなかった。編集ソフトはプレミアのみだったが、本で調べたり、早送りの記号をつけたり、みんなで試行錯誤を重ねた結果、何とか見るに耐えうるシーンができた。ある意味遊び、凝り性である。
 画面が暗すぎる、インタビューが聞こえない、なども調節した。